半年前、月之暗面(Moonshot AI)の企業価値は約43億ドルだった。
2026年6月、その数字は300億ドル(約4.5兆円)になっている。半年で7倍。もはや「成長」という言葉では追いつかない。
20億ドル調達、しかも「まだ足りない」
36Krの報道によると、月之暗面は新たに20億ドル(約3,000億円)の資金調達ラウンドを進めている。リード投資家には複数の一線級VCが名を連ねる。
驚くべきは、この規模の調達が「足りない」可能性すらあるということだ。AI基盤モデルの開発には膨大な計算資源が必要で、NVIDIAのGPUを数万基単位で確保しなければならない。調達した資金の大半は、GPUの購入と運用に消える。
「金を集めて、GPUを買って、モデルを鍛えて、また金を集める」——この無限ループを最速で回した者が勝つ。月之暗面は、そのスピードで群を抜いている。
月間売上、1カ月で2倍
数字をもう少し見てみよう。
月之暗面の月間売上は、2026年3月に1億ドルを突破した。中国のAIスタートアップとして最速の到達だった。
ところが4月には2億ドルに倍増。わずか1カ月で売上が2倍になった。
この速度は、同社のAIアシスタント「Kimi」の爆発的な普及によるものだ。中国の大学生やビジネスパーソンの間で、文書要約・論文検索・コード生成のツールとしてKimiが急速に浸透している。
Kimi K2.6のオープンソース化
月之暗面が評価を決定的に高めたのは、Kimi K2.6のオープンソース公開だ。
従来、中国のトップAIモデルは「すごいが、使えるのは自社サービスだけ」という制約があった。Kimi K2.6はMITライセンスで公開され、誰でも自由に使える。
ベンチマークではGPT-4クラスの性能を示し、世界の開発者コミュニティで一気に注目を集めた。Hugging Faceのトレンドランキングでも上位に入り、中国発のオープンソースAIの存在感を押し上げた。
創業からわずか2年
月之暗面の創業は2023年。清華大学出身の楊植麟(ヤン・ジーリン)が設立した。
2年で評価額4.5兆円。日本でいえば、楽天やソニーの時価総額に匹敵する規模だ。それをたった2年で、AIスタートアップが達成した。
比較対象として、日本のAIスタートアップで最も評価額が高いのはPreferred Networks(約3,500億円)。月之暗面はその13倍。設立年はわずか数年しか変わらない。
この速度差はなぜ生まれるのか。
「資金」「人材」「市場」のすべてが桁違い
中国AIスタートアップの速度を支えているのは、3つの要素だ。
資金。中国のVCはAIに年間数百億ドル規模で投資している。月之暗面が20億ドルを調達できるのは、それだけの資金が市場に流れ込んでいるからだ。
人材。清華大学、北京大学、中国科学院——世界トップレベルのAI研究者を国内で大量に供給できる。海外で学んだ研究者が帰国する「海亀(ハイグイ)」の流れも加速している。
市場。14億人の国内市場が、プロダクトの検証と収益化を高速で回す。月間売上が1カ月で2倍になれるのは、市場の規模と成長速度があってこそだ。
「国家規模の企業」が2年で生まれる世界
月之暗面だけではない。DeepSeek、智譜AI、MiniMax——中国では複数のAIスタートアップが数兆円規模の評価額に達している。
「スタートアップ」という言葉のスケール感が、日本とは根本的に違う。日本で「ユニコーン企業(評価額10億ドル以上)」が話題になっている間に、中国では「デカコーン(100億ドル以上)」が次々と誕生し、さらにその上を行く企業まで出てきた。
たった2年で、国家規模の企業が生まれる。AIという領域の異常さと、中国というエコシステムの底力。月之暗面の7倍成長は、その象徴だ。