日本でAIの話題といえば「ChatGPTを使ってみた」「AIで業務効率化」あたりが定番だが、中国ではもうその段階をとっくに通り過ぎている。
運転中に話しかけるだけでホテルが取れる
BYDや吉利、奇瑞をはじめとする中国の主要自動車メーカーが、アリババの「通義千問(Qwen)」をカーナビに続々と搭載し始めている。運転中に「来週の上海出張、ホテル取って」と話しかけると、AIが空室を検索して価格を比較したうえで予約まで完了してくれるため、「帰りの新幹線も」と追加すれば鉄道チケットの手配までそのまま済んでしまう。
日本のカーナビが「目的地を設定してください」と言っている間に、中国のカーナビはホテルの予約確認メールを送っている。
ByteDanceの豆包がPCを代わりに操作する
ByteDance(TikTok親会社)のAIアシスタント「豆包(Doubao)」は、2026年6月に有料版をローンチした。目玉になっているのはAIエージェント機能で、ユーザーの代わりにPCを操作してExcelでデータを整理し、ブラウザで情報を検索してレポートにまとめるところまでやってくれる。料金は学生プランの月額38元(約800円)から一般向けの68元(約1,400円)で、コーヒー数杯分の値段でAIが秘書代わりになるわけだ。
量子位(中国テックメディア)のレビュータイトルが秀逸で、「豆包有料版初日の感想:課金……また課金?……また課金!」とある。便利すぎてトークンの消費が止まらないらしい。
「ユーザーが足りない」という贅沢な悩み
NPRが興味深い報道をしている。中国のAIチャットボットは高性能なのにユーザーが足りない、というのだ。千問、豆包、元宝(Tencent)、Kimi(月之暗面)と、主要なAIアシスタントだけで10以上あり、しかもその多くが無料か格安なので、各社がユーザーの取り合いをしている状態になっている。「高性能AIが多すぎて困る」というのは日本からすると信じがたい話だが、これが2026年の中国の現実だ。
「チャット」から「アクション」に移った中国
中国のAI利用で際立っているのは、AIが実際に行動するという点にある。日本やアメリカでのAI利用はまだ「質問して回答を得る」が中心で、AIに聞いたあとは自分で実行するのが普通だろう。
一方の中国では、AIが聞いてAIが実行するところまで進んでおり、出前の注文やタクシーの配車、ホテルの予約にチケットの購入まで、人間は最後に承認ボタンを押すだけで済む。「チャットボット」から「アクションボット」への移行は単なる機能の違いではなく、AIとの関係性そのものが変わったということだ。
スーパーアプリと競争が生んだ差
中国だけがここまで先に進んでいる背景には、いくつかの要因がある。まずWeChat PayやAlipayといったスーパーアプリ文化があり、ひとつのアプリで決済から予約、配車、出前までが完結するため、AIがそのインフラに乗っかるのは自然な流れだった。
加えて10社以上がAIアシスタントを無料で提供しているという競争の激しさも大きく、差別化するには「チャット」だけでは足りないので「アクション」で差をつけるしかないという事情がある。AIに個人情報を渡してサービスを受けることへの心理的抵抗が相対的に低い点も、普及を後押ししている。
「触ってみた」で止まったままの日本
日本でも生成AIの認知度は上がっているが、日常生活にAIが溶け込んでいるかといえば、まだまだだ。「ChatGPTで文章を要約してみた」「Copilotでコードを書いてもらった」と、使い方が「実験」の域を出ていない。
中国ではAIがすでにインフラとして定着しており、電気や水道と同じように意識しなくても生活の中にある。この温度差は1年後にはさらに広がっているかもしれない。AIを「触ってみる」フェーズにいる国と、AIで「生活する」フェーズにいる国の差が、産業競争力の差に直結する日はそう遠くないだろう。