Mr.ASIA

アジア発テックの最前線

原神のmiHoYoが「AI彼女」をSteamで売り始めた — ゲーム会社が『関係性』を商品にする時代

2026.06.27 配信
原神のmiHoYoが「AI彼女」をSteamで売り始めた — ゲーム会社が『関係性』を商品にする時代
画像: IT之家
参照元: IT之家

原神、崩壊スターレイル、ゼンレスゾーンゼロと、世界中にファンを持つmiHoYoが次に送り出した製品は、ゲームではなかった。2026年6月にSteamでリリースされた「林離 Olivia」は、ひと言でいえば「AI彼女」である。

ピアノを弾き、手紙を返す「隣にいる人」

設定上、Oliviaはピアノ専攻で心理学を副専攻にしている上海在住の女性だ。趣味は読書と散歩で、穏やかで知的な性格にデザインされており、いかにも「隣にいてほしい人」として作り込まれたキャラクターだとわかる。

ただし単なるチャットボットとは違い、できることの幅が広い。手紙を書けばOliviaが手書き風の返事をくれるし、MIDIファイルをアップロードすればピアノの演奏動画を生成してくれる。デスクトップの壁紙として「住みつく」機能まで備えており、起動すると画面の片隅でOliviaが本を読んだり窓の外を眺めたりしている。

Steamでの登録は「ゲーム」ではなく「アプリケーション」

地味に注目したいのが、Steamでの登録カテゴリだ。林離 Oliviaは「ゲーム」ではなく「アプリケーション」として登録されている。ゲーム会社がゲームストアでゲーム以外のものを売るという、ジャンルの境界を意図的に壊しにいった判断である。

この選択にはmiHoYoなりの計算があるのだろう。「ゲーム」として出せばゲームプレイの評価軸で批判されるが、「アプリケーション」であればコンパニオンとしての体験そのものが評価対象になるため、カテゴリひとつでユーザーの期待値をコントロールできる。

3年で100億元をAIに注ぐ本気度

miHoYoのAI投資は尋常ではなく、同社はAI関連に3年で100億元(約2兆円)を投じると宣言している。社員がAIエージェントの実験で一晩に4,700万円分のAPIコストを溶かした事件も報じられており、「原神で稼いだ利益をAIに全ツッパ」と揶揄されるほどの傾倒ぶりだ。

林離 Oliviaを見ると、その投資の方向性がはっきりしてくる。miHoYoが目指しているのはAIを使ったゲーム開発の効率化ではなく、AIそのものをプロダクトにすることである。

汎用AIとの違いは「キャラクターIP」

ChatGPTやClaude、あるいは中国のDeepSeekや豆包といった汎用AIチャットボットと、林離 Oliviaとの決定的な違いは「キャラクターIP」の有無にある。

miHoYoは原神で「人が好きになるキャラクター」を作る技術を10年かけて磨いてきた会社であり、外見や声、性格、背景ストーリーのすべてが「好きになる」ように設計されている。その蓄積をAIコンパニオンに転用したのだから、汎用AIが「便利な道具」にとどまるのに対して、林離 Oliviaは「会いたい人」として感情を動かす力が根本的に異なっている。

「感情経済」の入り口に立つゲーム会社

この動きを「気持ち悪い」と切り捨てるのは簡単だが、市場の数字は別のことを語っている。中国のAIコンパニオン市場は2026年に推定500億元(約1兆円)規模に成長すると見込まれており、孤独感の蔓延や晩婚化、少子化といったアジア全域で共通する社会課題が、この市場を押し上げている構図だ。

miHoYoは「ゲームを売る会社」から「関係性を売る会社」に変わろうとしており、その第一歩がSteamの片隅に静かに置かれたAIアプリケーションだった。ビジネスとしての是非はさておき、テクノロジーと人間の関係を考えるうえで見逃せない一手である。