地球上のデータセンターが足りないなら、宇宙に作ればいい。イーロン・マスクがそう言い出したとき、テック業界の反応は大きく二つに分かれた。「さすがマスク、スケールが違う」という称賛と、「それ、本当に計算した?」という冷ややかな視線だ。
後者の代表格が、ソフトバンクの孫正義CEOだった。
孫正義が噛みついたポイント
孫正義の主張はシンプルだ。宇宙にデータセンターを置いても、コストは大幅には下がらない。しかも実現までの時間軸が長すぎて、AI競争の「今この数年」に間に合わない、と。
AI開発をめぐるインフラ争奪戦はまさに今が正念場であり、軌道上のデータセンターが稼働する頃には勝負がついている可能性がある。孫正義は地上のデータセンターに巨額投資を続けており、フランスだけで750億ユーロ(約12兆円)規模の投資計画を公表している。地上派として当然のポジションとも言えるが、技術的な反論としても筋が通っている。
アルトマンも「タイムラインが」
OpenAIのサム・アルトマンCEOも、軌道データセンターの実現時期について懐疑的な見方を示した。宇宙空間に計算インフラを構築するというアイデア自体は否定しないものの、今のAI競争のスピード感にはまったく合っていない、という指摘だ。
TechCrunchのポッドキャスト「Equity」でも指摘されていたのは、この議論に参加している全員が「自分の商売に都合のいい未来」を語っているという事実。孫正義は地上インフラに投資しているから宇宙を否定するし、マスクはSpaceXを持っているから宇宙を推す。ポジショントークの応酬だと見れば、それぞれの発言の温度感も理解しやすい。
SpaceXだけが確実に儲かる構造
宇宙データセンター構想でもっとも確実に利益を得るのは、打ち上げを担うSpaceX自身だ。現在、世界の商業打ち上げ市場でSpaceXのシェアは80〜90%。Starlink事業を除いても20〜40%を占めるとされる。
つまり、軌道上にデータセンターを建設するプロジェクトが動けば動くほど、SpaceXには打ち上げ需要が発生する。マスクが旗振り役を務めるのは、ビジョナリーとしての信念だけでなく、ビジネス上の必然でもある。
チップメーカーのGroqが6億5000万ドル(約1000億円)の資金調達を実施し、BroadcomやNvidiaがAIインフラの覇権を争い、GoogleやAnthropicが計算資源の確保に走り回っている現状を見ると、「コンピュート不足」は業界全体の切実な課題だ。宇宙に逃げたくなる気持ちはわかる。
壮大なビジョンか、壮大なポジショントーク
軌道データセンターが完全に非現実的かというと、そうとも言い切れない。冷却コストの低減や太陽光発電の効率向上など、宇宙ならではのメリットはある。ただし現時点では、建設コスト、メンテナンス、通信遅延、デブリリスクなど課題が山積みなのも事実だ。
孫正義、アルトマン、マスク。三者三様のポジションから語られるAIインフラの未来図は、結局のところ「今すぐ勝ちたい人」と「10年後の覇権を狙う人」の時間軸の違いに集約される。どちらが正しいかは、AI競争の決着がいつつくか次第だろう。