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「Claudeを使いたい」中国ユーザーが生んだ闇経済 — 偽造ID、中継サーバー、暗号長者の参戦

2026.06.28 配信
「Claudeを使いたい」中国ユーザーが生んだ闇経済 — 偽造ID、中継サーバー、暗号長者の参戦
画像: WIRED
参照元: WIRED

AnthropicのAIアシスタント「Claude」は中国からのアクセスを公式に認めていない。VPNを使っていても疑わしいアカウントを積極的にBANするなど、OpenAIのChatGPTより厳しい姿勢で知られている。それでも中国のユーザーはClaudeを諦めない。むしろ制限が厳しくなるほど、その裏をかく闘いはスケールアップしている。

「世界最高のAI」への執着

6月初旬、Anthropicが最新モデル「Fable 5」を公開した直後、中国のSNSには使用感を報告する投稿があふれた(数日後にトランプ政権の輸出規制を受けてアクセスが世界的に制限されたが、それまでの間に試した中国ユーザーは少なくなかった)。

中国にはDeepSeekやZ.aiといった強力なオープンソースモデルがあるにもかかわらず、第三者テストではまだ米国の閉じたモデルに追いつけていないのが現状だ。WIREDが中国で取材した複数のテック企業のエンジニアや研究者は、コード生成ではClaudeが圧倒的に優れていると口をそろえた。オックスフォード大学中国政策ラボの研究員Zilan Qianは「中国モデルはまだ米国モデルの6〜9カ月遅れであり、コーディングでは差が明確にわかる」と指摘している。

Taobaoで買えるClaudeアカウント

一般ユーザーの場合、まずはVPNで海外のIPアドレスを使い、常に同じ場所からアクセスしているように偽装するのが定番の手法になっている。もっと手軽に済ませたいユーザーは、中国のECプラットフォームTaobaoや中古品売買サイト「闲鱼(Xianyu)」で設定済みのClaudeアカウントを購入している。Anthropicに見つかればBANされるが、ちょっと試したいだけの人にとっては使い捨てでも十分というわけだ。

Telegramでも同様のマーケットが拡大しており、ベトナムの詐欺対策NPO「ChongLuaDao」の調査員によれば、Claude ProやClaude Maxの有料アカウントがChatGPT PlusやGemini Plusと並んで販売されている。

「中継サーバー」という裏インフラ

プロの開発者にとって、アカウントの使い捨てでは仕事にならない。そこで登場したのが「中継サーバー(転送ステーション)」と呼ばれるサービスだ。

仕組みはこうなっている。中継サーバーの運営者がAnthropic対応国にサーバーを設置し、Anthropic APIへのアクセス権を確保する。中国のユーザーはClaudeに直接アクセスするのではなく、中継サーバー経由でプロンプトを送信し、Claudeからの応答を受け取る。エンタープライズ割引を利用できるため、正規のAPI料金より安く提供されるケースも多い。

需要の爆発的な増加を受けて、中国語のまとめサイトやGitHubページには数十の中継サーバーが価格比較つきでリスト化されている。あの暗号通貨長者ジャスティン・サンですら、5月に自前の中継サーバーを開設してこのビジネスに参入した。

シンガポールの利用率が異常に高い理由

中継サーバーやVPN経由のアクセスが集中した結果、思わぬ統計の歪みが生じている。Anthropicが公表するデータでは、人口わずか600万人のシンガポールが、人口あたりのClaude利用率で世界トップクラスに入ることが多い。中国語が広く通じる国際ビジネス拠点であるシンガポールは、中国ユーザーが位置情報を偽装する際の定番の「接続先」になっているためだ。

身分証明も突破される

Anthropicは4月、一部ユーザーに本人確認(KYC)を導入した。パスポートや運転免許証などの顔写真付き公的身分証明書の提出を求め、対応国以外の証明書は受け付けないという厳格なもので、不合格ならアカウントがBANされる。

しかし中国のユーザーにとって、これも単なる新しいハードルに過ぎなかった。Telegramのチャンネルでは「KYC突破済み」のClaudeアカウントが販売されるようになり、「KYCの回避方法」を共有する投稿も増えている。

便利さの裏にあるリスク

制限をかいくぐるほど、ユーザーが晒されるセキュリティリスクも大きくなる。Telegramの売り手に騙される可能性があるのはもちろん、中継サーバーに送信したプロンプトや機密情報が運営者によって収集され、第三者に転売されるリスクも無視できない。

オックスフォードのQian研究員は「この中継サーバーのインフラが存続するかぎり、AI安全性に取り組む人々は悪意あるユーザーの監視と抑止をどう実現するか、改めて考える必要がある」と警鐘を鳴らしている。

Anthropicがどれほど規制を強化しても、モデルが一般公開されているかぎり、中国のユーザーはアクセス手段を見つけ続けるだろう。そしてその「闇のインフラ」は、すでに一つの経済圏として自律的に動き始めている。