大きな会社が「この商品、もう作るのやめます」と言うことがある。せっかくいい技術なのに、そのままお蔵入り。もったいない話だ。
ところが今、ソニーで面白いことが起きている。お蔵入りになったはずの技術が、外でちゃっかり復活しているのだ。しかも復活させているのは、その技術を一番よく知る元ソニー社員たち。会社が手放したお宝を、辞めた本人が拾って商売にしている。そんな例が、ひとつふたつではなくなってきた。
ソニーがやめた腕時計に、5億円が集まった
その代表が「wena(ウェナ)」だ。
スマートウォッチって、画面がついていて、いかにも「ハイテクです」という顔をしているものが多い。でもwenaは違う。腕時計のバンド部分に、お金の支払いやスマホの通知を受け取る機能をこっそり入れただけ。お気に入りの時計はそのまま使えて、バンドだけ便利になる。なかなか粋なアイデアだった。
ところがソニーは、この商品をやめてしまった。
そこで動いたのが、対馬哲平さんという人。実はこのwena、もともと彼がソニーの社内コンテストで考え出したものだった。会社を辞めるとき、彼はwenaの権利を自分で買い取り、昔の仲間3人と新しい会社「Augment AI」を立ち上げる。そしてネットでお金を募ったところ、集まったのが約5億4000万円。目標にしていた額の、じつに50倍以上だった。
会社は「もう売れない」と判断した。でもお客さんは、その50倍ものお金を出した。売れなかったんじゃなくて、ソニーが売るのをやめただけ。そう言いたくなる結果である。
お米一粒より小さいのに、レーザーがすごい
もうひとつの話は、もっとぶっ飛んでいる。
ソニーの半導体部門から2026年1月に独立した「SCALE photonics(スケール・フォトニクス)」という会社。代表の鎌田正直さんが作っているのは、とにかく小さくて、とにかく強いレーザーだ。
どれくらい小さいかというと、1mm³。お米一粒よりも小さい。そんな極小サイズなのに、一瞬だけど57kWというものすごいパワーのレーザーを出せる。電子レンジ何十台分ものパワーが、米粒サイズの中に詰まっていると思えばいい。世界でまだ誰もできていなかった作り方だという。
この技術、ソニーの中にいたころはあまり日の目を見なかった。ところが独立したとたん、世界的に有名な半導体スタートアップ支援団体の日本チームが、最初の投資先として選んだ。社内では目立たなかったものが、外に出たとたん引っ張りだこになったわけだ。
「捨てた技術」が外で花開く時代
この話、技術がすごいという以上に、「技術の活かし方」の話として面白い。
大きな会社は、お金にならなそうとか方針が変わったとかで、いい技術でもあっさりやめてしまう。そして、やめた技術はそのまま会社の中で眠ってしまうことが多い。
でも今回のソニーは、その技術を本人に渡して「外でやってきなさい」と送り出した。眠らせる以外の道を見せてくれたわけだ。
辞めた社員が、会社が捨てた技術を磨き直してヒットさせる。日本の大企業では、まだあまり見ない光景だ。でも、会社の中でどれだけの技術が眠っているかを考えると、こういう「お宝の拾い直し」は、これからもっと増えていくのかもしれない。