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ソニーが捨てた技術が、辞めた社員の手で蘇る — Wenaスマートウォッチと1mm³レーザーの逆襲

2026.06.28 配信
ソニーが捨てた技術が、辞めた社員の手で蘇る — Wenaスマートウォッチと1mm³レーザーの逆襲
画像: Nikkei Asia

大きな会社が「この商品はもう作りません」と決めることは珍しくない。いい技術だったのに、そのままお蔵入り。もったいない話だが、よくあることだ。

ところが最近、ソニーで少し変わったことが起きている。お蔵入りしたはずの技術が、会社の外で復活しているのだ。手がけているのは、その技術を誰よりも知る元ソニー社員たち。会社が手放したお宝を、辞めた本人が拾い上げて事業にしている。しかもこうした例が、ひとつふたつではなくなってきた。

ソニーがやめた腕時計に、5億円が集まった

代表例が「wena(ウェナ)」だ。

スマートウォッチといえば、画面がついていて、いかにもハイテクという見た目のものが多い。だがwenaは違った。腕時計のバンド部分に、支払いやスマホの通知を受け取る機能を組み込んだ製品で、文字盤はお気に入りのまま、バンドだけが便利になる。なかなか粋なアイデアだった。

それでもソニーは、この事業をやめてしまう。

そこで動いたのが対馬哲平さんだ。このwena、もともとは社内コンテストで対馬さん自身が考え出したものだった。会社を辞める際、対馬さんはwenaの権利を自分で買い取り、かつての仲間3人と「Augment AI」という会社を立ち上げる。そしてネットで資金を募ったところ、集まったのは約5億4000万円。目標の50倍を超える額だった。

会社は「もう売れない」と判断した。だが、お客さんはその50倍ものお金を出した。売れなかったのではなく、ソニーが売るのをやめただけ。そう言いたくなる結果である。

お米一粒より小さいのに、強力なレーザー

もうひとつの話は、さらに驚きだ。

ソニーの半導体部門から2026年1月に独立した「SCALE photonics(スケール・フォトニクス)」。代表の鎌田正直さんが手がけるのは、とにかく小さくて、とにかく強いレーザーだ。

どれくらい小さいかというと、1mm³。お米一粒よりも小さい。それなのに、一瞬とはいえ57kWというすさまじいパワーのレーザーを出す。電子レンジ何十台分のパワーが米粒の中に詰まっている、とイメージすると分かりやすい。こうした作り方は、世界でまだ誰も実現できていなかったという。

この技術も、ソニーの中にいたころはそれほど目立たなかった。ところが独立したとたん、半導体スタートアップの支援で知られる団体の日本チームが、最初の投資先に選んだ。社内では地味だった技術が、外に出た途端に引っ張りだこになったわけだ。

「捨てた技術」が外で花開く時代

この一件は、技術そのものより「技術の活かし方」の話として面白い。

大きな会社は、採算が合わない、方針が変わったといった理由で、いい技術でもあっさりやめてしまうことがある。そして、やめた技術はそのまま社内で眠ってしまうことが多い。

だが今回のソニーは、その技術を本人に渡して「外でやってきなさい」と送り出した。眠らせるだけが道ではないと示したわけだ。

辞めた社員が、古巣の捨てた技術を磨き直してヒットさせる。日本の大企業では、まだあまり見ない光景だ。とはいえ、社内にどれだけの技術が眠っているかを思えば、こうした「拾い直し」は、これから少しずつ増えていくのかもしれない。