あのChatGPTを作ったOpenAIが、今いちばん欲しがっている国がある。中国でもヨーロッパでもない。インドだ。
どれだけ本気かは、ある人事を見ればよく分かる。OpenAIは、配車アプリUberのインド事業のトップだったプラブジート・シンさんを引き抜き、インド事業の初代トップにすえた。人口10億人を超える巨大で複雑な市場を、タクシー配車でさばいてきた人物だ。わざわざこういう人を連れてくるあたりに、並々ならぬ気合いが見える。
ユーザー数は、もうアメリカに次いで世界2位
OpenAI自身が、インドを「アメリカの次に大きな市場」とはっきり言っている。
数字を見ると納得だ。ネットを使う人が10億人以上。プログラマーの数も世界トップクラス。そして何より、18〜24歳の若い世代でChatGPTがぐんぐん広まっている。人が多くて、若くて、ITにも強い。AIを売る側からすれば、これ以上ないお客さんがそろった国なのだ。
「Uberでインドをさばいた人」を呼んできた
そのシンさんがOpenAIに入るのは2026年9月。アジア地域のトップ、キラン・マニさんの下で働くことになる。
任される仕事は、とにかく幅広い。ふつうのユーザーを増やすこと、会社への売り込み、他社との協力、お役所とのやりとり、現地チームの成績まで、インドのことはほぼ全部この人が見る。ルールやトラブル対応に追われる配車ビジネスで鍛えられた人だから、これだけ何でも任せられるのだろう。
実は、準備はずっと前から進んでいた。元Meta(旧フェイスブック)のプラギャ・ミスラさんがルール作りの担当に入り、ツイッターのインド代表だったリシ・ジャイトリーさんも政府とのやりとり役で加わっている。OpenAIは目立たないように、でも着実に、インド攻めの態勢を整えてきたわけだ。
オフィスも、巨大な施設も次々に
動いているのは人だけではない。土台作りも急ピッチだ。
オフィスは2025年8月に開いたニューデリーを皮切りに、ムンバイとベンガルールにも作る予定。組む相手も幅広く、大学などの教育機関、支払いサービスのPine Labs、動画配信のJio Hotstarなどが並ぶ。その中心にいるのが、インドを代表する超大手企業グループのRelianceとTataだ。
特に大きいのが、Tataと一緒に進める巨大なデータセンター(AIを動かすコンピューターをずらりと並べた施設)の計画だ。AIは、動かすだけで電気もコンピューターも大量に消費する。その施設をインド国内に置けば、サービスは速くなり、コストも抑えられる。「データは自分の国の中で管理する」という現地のルールにも合わせやすい。技術者の募集にも力を入れていて、現場でAIを使えるようにする人材を積極的に集めている。
ライバルも、同じ場所を狙っている
OpenAIがこれほど急ぐのは、ライバルの足音が近いからでもある。
ライバルのAnthropicも2025年の終わりにベンガルールにオフィスを開き、2026年の初めには元マイクロソフトのインドトップ、イリーナ・ゴーズさんをインド責任者に迎えた。アメリカのAI大手が、そろってインドに押し寄せている。
ただ、うまい話ばかりでもない。ユーザーの数はものすごく多いけれど、一人ひとりが払えるお金は、アメリカやヨーロッパほど多くない。だから「安く、たくさんの人に使ってもらいながら、会社向けでしっかり稼ぐ」という、なかなか難しいやりくりが必要になる。10億人の市場をどう攻めるか。それが、各社のこれからの稼ぎを大きく左右することになりそうだ。